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【リ協コラム】台湾で、外装タイル、あれこれ調査

  
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【リ協コラム】台湾で、外装タイル、あれこれ調査

これはちょうど1年前の話。昨日のことのように今はっきりと思い出すというわけではありませんが、久方ぶりに訪れた台湾での活動についてご紹介したいと思います。

内容は昨年の日本建築学会の大会で報告を行い、さらには、それをベースに先日行われた当協会の新春情報交換会にて発表を行いました。

※以下、1年目に記した内容につき、現在と多少異なる部分があるかしれません。ご容赦ください。

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文化や自然の見どころが多く、お茶や食べ物が美味しく、カジュアルで親切な人が多い台湾。建物に目を向けると、新旧の建物が高密度で立ち並ぶ一方で、都市部では大街区に超高層の建物がニョキニョキ建っています。さらに建物をよく見てみると、外壁に張られたタイルには剥落が多く見られます。

<タイルの剥落:台湾での剥落の典型例とも言えるタイル陶片と張付けモルタルの界面での剥離>

筆者は、2013年より台湾の大学の先生方にご協力いただきながら日本の研究者(建築構法系大学教員)や技術者(マンション改修分野)と共に、台湾の外装タイルの不具合について多角的に現況を把握する活動を行っています。この活動の特徴としては、現地の視察や現地関係者との意見交換を基本としていること、研究者と技術者(設計者、施工者)の複合的な視点で対象にアプローチしていることが挙げられます。今回の現地調査では、以下の2つを行いました。

・タイル張り建物の改修工事現場の視察

・タイル張り建物の点検制度を担当する地方自治体職員との意見交換

それぞれ簡単に概要を述べたいとと思います。

・改修現場視察

今回伺った現場は、台北市内にある大学施設の改修工事現場です。建物は、1960年の竣工で、台湾の建築家・王大閎(ワン・ダーホン1917-2018)による設計です。王はWikipediaによればアメリカでグロピウスに学び、イオミン・ペイやフィリップ・ジョンソンとクラスメイトだった人物で、国立国父記念館などの作品があります。当該建物は、これまで何度か増築が行われてきましたが、全面的な改修工事は行われてこなかったようです。

今回の改修工事は、主に全面的な屋上防水改修と、外装タイルの張替えを行っています。その特徴を挙げると、

・設計監理者を選定する改修案コンペの実施

・王による意匠の継承と外装タイルの品質向上の両立

・タイル張りに関する安全性の確保

・勾配屋根の拡張、掛け替えによる防水性能の向上

コンペで選ばれた設計監理者である建築師(台湾では国家資格保有者に対し「師」の文字を用い「建築師」と表記します)の話では、1960年当時のタイルは厚みや裏足が薄いなど品質が悪く、また下地の状況も良くなかったため、タイルは全面的に張替える必要がありました。しかし、用いられている特殊なギザギザ模様(「十三溝面磚」というデザイン)のタイルを作っているタイルメーカーは既になくなっていました。建物の意匠性を保持した改修工事とするため、質の高いギザギザタイルを製造する必要があり、建築師は対応できるタイルメーカー(台湾に1社しかない)とタイルの製造機から作成して張替え用の新たなタイルを製作したとのことです。

また、施主である大学は、タイルを張った後で建築構法系の研究者によるタイルの接着力試験の実施を工事仕様に含めています。台湾において工事の際、タイルの接着力試験を行うこと自体は珍しいことではありませんが、今回のようないわゆる第三者検査を仕様(契約)に盛り込むとことはあまりないようで、建物の安全性を重視した取り組みと言えます。

このような試みは、個別の熱意によるところが多い面もありますが、台湾全体として建物の品質向上、外装タイルの安全性に関する意識の高まりを反映したものと考えることが出来るのではないでしょうか。

<外装タイルの接着力試験跡:試験は全9箇所(各3点測定、外壁面積不明)で基準値6.0kgf/㎠(台湾国家標準CNS12611)以上であった。写真の破断面は、下地モルタルの凝集破壊とタイルと接着剤の界面破壊が優勢となっている装タイルの接着力試験跡:試験は全9箇所(各3点測定、外壁面積不明)で基準値6.0kgf/㎠(台湾国家標準CNS12611)以上であった。写真の破断面は、下地モルタルの凝集破壊とタイルと接着剤の界面破壊が優勢となっている>

・地方自治体との意見交換

冒頭、台湾では外装タイルの剥落が多く見られると書きましたが、それを放置しているわけではありません。タイルの剥落による人身事故をきっかけに、地方自治体(市政府)では本格的な対策に乗り出しています。2014~2016年にかけて、台湾南部の高雄市や北部の桃園市では、規模や築年数による基準以上の建物に対し、大学や建築師と連携して、大々的な目視調査を行っています。それぞれ1年ほどで、高雄市政府では4,000件、桃園市政府では300件を調査しています。主な調査の内容は、目視により外装タイルの剥落の有無と範囲を調べ、危険と判断された建物には「危険マーク」ポスターを張り、道路の通行制限を設けたりするといったもので、現況の把握と応急的な安全対策として有効であったと考えられます。

そして、台北市政府では2020年より他の市政府に先駆けて、外装タイルの点検報告制度を開始しました。これは、日本の特定建築物定期調査報告制度に似たような制度で、建物の所有者に対し、外装タイルに関して打診調査を含む点検とその報告義務を課し、必要に応じて改善(補修)完了の報告を求めるといった制度です。台北市政府は、情報公開に非常に優れており、制度説明やQ&Aの冊子・HPが非常に充実しています。詳細を知りたい方は是非HPをチェックしてみてください。

臺北市建築管理工程處 建物外牆安全:https://dba.gov.taipei/Content_List.aspx?n=994B0CD44561DC7A

今回は、この制度を取りまとめた自治体担当者から直接お話を伺うことが出来ました。主には制度に関する説明を伺う形となりましたが、以下の点が印象に残りました。

・制度を作るにあたり日本、韓国、香港といった周辺国の点検制度の比較検討を実施

・より台湾にふさわしい制度となるよう模索し続けている

日本の制度についても上手くまとめて把握されていることに驚くとともに、他国の制度についても知ることが出来、非常に勉強になります。目下の悩みは、点検スパンの決め方のようで、現在の3年ごとの点検では所有者への負担が大きくなる一方、定期的に全面的な改修工事を行うことが一般的でない台湾において、どのように条件を設定し、点検スパンを定めていくのが有効かという点に苦慮していました。喫緊の課題として建物の安全対策に取り組む姿勢と実情を考慮して最適化を目指す誠実な姿の表れといえます。今回の意見交換を通して、台湾の外装タイルに関わる制度が今まさに確立に向けて動いているのを感じました。

<張替え補修跡:台湾では外壁面の全面的な改修は一般的でなく、剥離した部分のみを補修するケースが多い>

・その他

現場視察や意見交換は、毎回エキサイティングで非常に楽しいのですが、台湾調査で忘れてならない楽しみの1つが食事です。台湾料理といったら何を思い浮かべますか。小籠包や牛肉麺、魯肉飯を思い浮かべる人も多いでしょう。今回筆者が初めて食べておいしかった料理といえば「酸菜白肉鍋」です。発酵させた白菜が大量に入った鍋料理で、お邪魔した台北での新年会と高雄での昼食会の両方でふるまわれていたので、台湾ではポピュラーな料理のようです。豚のばら肉や魚のすり身、野菜の鍋にザワークラウトをこれでもかと入れているイメージです。出汁のなかに酸味が冴えわたり、箸が進むこと間違いなしです。クセになる感じです。未体験の方は台湾に訪れた際に是非お試しあれ。

台湾の外装タイルについて約10年見ていると、取り巻く環境が少しずつ変化しているのを感じます。公共も民間も品質向上や安全性向上に向けて徐々に徐々に動いています。興味深いテーマであるため、引き続き「台湾の外装タイル」に注視していきたいと思います。また、機会があればこのコラムでも報告いたします。

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