マンションの消防設備
日ごろ、目にすることはあるのに、マンションの居住者の生活にどう役に立っているのかよくわからない。あるいは、言われなければそこにあることがわからないといったように、なんだかよくわからないのが消防設備、防災設備です。これらがいったいどういうもので、どのように役に立ち、維持管理するためにどうしなければいけないのかを説明します。
消防設備の種類
具体的な名称を掲げてもその一つ一つは専門的な説明が必要になってしまうので、種類別に分けてご紹介します。
1警報設備にはどういうものがあるか
■自動火災報知設備
■非常警報設備
火災を発見した人が押し釦を押してマンション内に警報を発するための設備です。火災の自動感知はできません。警報設備には、マンションの竣工年によってさまざまなスタイルの火災報知システムが存在します。またインターホンと連動していたり、ほかの設備との混在があったりと、マンションの中でもどこからどこまでが消防設備になるのかわからない場合もあります。ご自分のマンションにはどのような警報設備が具備されているのかは、定期に実施されている消防設備点検報告書を見ればわかります。
2消火設備(器具)にはどういうものがあるか
■消火器
共用部の廊下などに、建物のあらゆる位置から歩行距離20m以内ごとに設置されています。ボヤにしろ、火災が起きたらまずあてになるのがこの消火器です。しかし、実際に火災となると消火薬剤を放出させずに、消火器を丸ごと火事の火元に投げつけることが多いようです。これでは絶対火は消えません。日頃使い方を覚えておく必要がある器具です。製造年から一定期間が経過すると、本体容器に対して消防法で定められた耐圧試験の義務が発生します。
■屋内消火栓
マンションの共用部、主に廊下や階段踊り場などに設置されています。建物の一定の規模以上がないと設置の義務がないので、屋内消火栓がないマンションも多いでしょう。二人一組で操作します。一人では扱えません(最新のものは一人ですべての操作ができるようになっています。)。たいてい、操作方法がよくわからなくて、実火災では使われないことが多い設備でもあります。消防訓練などを実施して1回でも操作経験があれば、使い方は極めてシンプルですから有効に活用できる設備です。消火器よりも消火能力は絶大です。ホースに対し、消防法で定められた耐圧試験の義務が発生します。
■スプリンクラー
11階建て以上のマンションの11階より上階に設置されます。これも設置の免除項目があるので、設置されていないマンションも多数あります。特長は、自動で消火できることです。火災を感知したら感知した個所(スプリンクラーヘッドといいます。)から放射状に水が噴き出して火を消してくれます。
■泡消火
自走式の駐車場や、地下の駐車場に設置されます。これも自動消火のシステムです。火災の感知はスプリンクラーと同じ方法(スプリンクラーヘッドが感知する。)で行われます。ガソリン火災を消す必要があるので、特殊な泡薬剤を水と混合させて専用の泡ヘッドから放出させます。この方式は、コンピナートの石油備蓄タンクに設けられている消火設備と同じ種類です。したがって絶大な消火効果をもたらします。その代わり放出した領域は泡だらけになります。それも石鹸の泡のレベルではありません。
■ガス消火
ハロゲン化物消火設備とか二酸化炭素消火設備という名称の設備です。タワー型の駐車場や、地下駐車場に設けられます。文字通り、不燃性のガスを放射してこのガスが外部に漏れないように区画内に充満させて火を消します。もともと航空機火災用に作られた物で、燃えたところだけを消す ことができます。つまり火元以外は消火剤による汚損や被害が少ないという理屈ですが、実際の火災では濃煙と煤で真っ黒になるので、避けることができるのは消火薬剤による汚損だけです。それでもほかの消火方式よりは水損や薬剤汚損は避けられます。消火ガスを充てん保存するボンベの弁(容器弁といいます。)に対して消防法で定められた耐圧試験の義務が発生します。
■粉末消火
敷地内に機械駐車場がある場合や、1階部分がピロティになっているようなマンション駐車場に設けられます。圧倒的に放出量が豊富な巨大消火器といった感じです。消火器は一度使用したら再使用できませんが、この設備の場合は、使用したガスと粉末消火薬剤を充填すれば何度でも使用できます。実は消防法上はガス消火と同じ種類に分類されていますが、わかりやすくするために別途説明しました。
3避難設備にはどういうものがあるか
消防設備の種別としてこのような分類をしていますが、避難は基本的に普段使っている共用廊下、階段、出入り口がその施設そのものです。避難経路はマンションがもともと構造的に備えていなければならない要件であって、避難設備はそれを成立させるための補助という位置づけになります。最も基本的な避難の要件は「二方向避難」ということです。屋内のあらゆる地点から必ず2方向以上に避難ルートが確保されるようにマンションは設計されています。だから、最も望ましいのは階段がマンションの両端に1本ずつあることです。実際には土地や建物の形状から、階段が1本だけしか付けられないというマンションが多いでしょう。それでもう一方の避難経路を確保するために、ベランダ側に避難ハッチを設置したりするわけです。
避難に関してはもう一つ建物の構造上重要な要件があります。それは、発生した火事の火や煙が避難ルートをふさがないようにすることです。マンション内でこれを担当しているのが、鉄筋コンクリートの壁、玄関の扉、屋内階段の重い防火扉などです。火災発生の場合にはこれらの日常建具類が延焼や煙の流動を遅らせてくれます。単純に言えば、火事を一定の空間の中に閉じ込めるようなイメージです。こうしたことを建築基準法上では「防火区画」「防煙区画」といいます。もっとわかりやすく言えば、マンションの1戸はこの防火区画、防煙区画そのものです。だから、火災が発生しても左右上下の住戸には容易に延焼しないように作られているのです。当然ですが、廊下に私物や、ベランダに荷物を常時おいたりしていると、火事が起きた時はこれらを媒介にして、容易に周辺へ火は燃え移ります。こうしたことを解決するにはマンションのコミュニティが日常、防火管理に重い関心を寄せいていなければなりません。
さて、避難設備にはどのようなものがあるか説明いたします。避難ルートそのものを補助する設備と避難する方向を示す設備の2種類に分かれます。
まず、避難ルートを補助する設備ですが、次のようなものがあります。
1避難ハッチ
2吊り下げはしご
3緩降機
この中でマンションの避難器具として最も多いのは1の避難ハッチでしょう。「二方向避難」がきちんと確保できるベランダの位置に設けられます。住戸によっては避難器具が目の前のベランダにはないというお部屋が多いと思いますが、いざというときベランダに避難せざるを得なくなった場合、同じ並びのどの部屋のベランダにこの避難器具があるのかは確認して覚えておく必要があるでしょう。
次に避難する方向を示す設備ですが、これは「誘導灯」や「誘導標識」といったものです。誘導灯は、停電になっても発光し続け、火災の濃煙の中でもその位置が分かる優れた性能を持っています。誘導標識は必ず蓄光塗料で光が途絶えても発光するように作られています。まれに、手製の標識や誘導灯に使われるアクリル表示板を取り外して標識の代わりにしている場合がありますが、これらはすべて消防法違反です。
避難設備の解説の冒頭で述べましたが、玄関の扉や屋内階段の入り口の防火扉も防火区画を形成する重要な防災設備です。普段は空き放し状態になっていて、火災の時にだけ閉鎖する防火扉や防火シャッターもあります。これらも避難のための重要な設備になりますが、実は消防設備ではありません。同じように、共用廊下や、屋内階段にも、火災や災害による電源が途絶えた時でも自己発光して避難路を照らし続ける非常用照明というものが設置されています。これも消防設備ではありません。
4消防の用に供する設備にはどのようなものがあるか
■連結送水管
マンションの居住者が使えるわけではなく、消防隊が駆けつけて初めて使用できる設備として最も代表的なものがこの連結送水管です。マンションの入り口付近に二口の送水口が設けられ、3階から上階にむけて各階に放水口があります。2階と1階にはありません。なぜなら消防自動車のホースで足りるからです。基本的に、7階建て以上のマンションに設置されています。11階から上になるとホースも一緒に設置されています。配管とホースに対して耐圧試験の義務が発生します。
■非常用コンセント
11階以上の階に設置されます。消防隊がその場で使うチェーンソーなどの救助用破壊工具の電源になります。前述のスプリンクラーも連結送水管もそうですが、マンションの11階から上は消防設備の設置義務が重くなります。
■防火用水
これは普段意識のはしにも上らない消防設備の最たるものです。マンションの地下ピットや、広い駐車場の地下などに設けられた消火活動用の人口のため池です。そのマンションが火災になった時にも使用しますが、近隣の火災時にも使われます。所轄署側からすれば、個人の敷地内にため水の場所をお願いして借りているという感じになります。だからと言って賃貸借関係があるわけではありませんが。
5非常電源にはどのようなものがあるか
■非常電源専用受電設備
マンションに屋内消火栓や、スプリンクラー、非常コンセントが設置される場合にこの設備が設けられることが多くなります。マンション内に引き込まれる電源の最も根元から供給されて、マンション内の電源が落ちてしまったとしても、電力会社からの電源供給が続いていればこの電源は生き続けるというわけです。地域停電になったり、公共の電力が一斉に停電になってしまうと当然使用できません。
■自家発電設備
文字通り地域が停電となっても自家発電することで非常用の電源が確保できる設備です。大型のマンション、店舗と一体になっているマンションなどに設置されています。ディーゼルエンジンが起動するとその音と振動はかなりの大きさになります。屋内消火栓、スプリンクラーの非常電源となるほかに、非常用エレベータなどの非常電源となることもあります。
消防設備の劣化とメンテナンス
劣化の判断は大きく二つに分かれます。
一つは設備の機能的な劣化、物理的な劣化です。これは、建物そのものやほかの設備についてもいえることなのでその事例について考えていく必要があります。
もう一つは社会的な劣化です。法律による強制的な更新です。法律による強制更新は、型式失効などとよばれ、消防設備が最初にその設計で生産することを公共機関によって認められてから設備によって25年、30年と経過すると、その設備が使用可能か不可能かにかかわらず更新しなければならない状況のことです。店舗や病院、老人福祉施設などといった用途と混在しているマンションはこの強制更新の対象となります。それ以外の住居用途のみで構成されているマンションはこの強制は基本的にはありません。
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一般的な消防点検の流れ